着物の悉皆(しっかい)を正しく理解していますか。
日頃、着物を着用しない方にとっては馴染みのない言葉かもしれません。
悉皆は、着物を長く愛用するために欠かせないお手入れです。
この記事では、悉皆の意味や内容について解説しています。
悉皆を知らない方にもわかりやすく解説していきますので、最後までお読み頂くことで悉皆の知識が深まります。
悉皆(しっかい)とは
「悉皆」の言葉の意味
悉皆には、「ことごとく、みな、残すところなく」といった意味があります。
このようなことから、着物のメンテナンス加工に関すること全般を指して「悉皆」と呼びます。
悉皆屋とは?
「悉皆屋」を辞書で引くと、以下の通り定義されています。
「江戸時代、大坂で染め物・洗い張りなどの注文を取り、京都の専門店に取り次ぐことを業とした者。転じて、染め物や洗い張りを職業とする人」
出典:小学館「デジタル大辞泉」
その昔、悉皆屋はお客様の要望を聞き、仕立てなどの注文を受け、専門店に仕事を受け渡していました。
着物の加工技術のほとんどが分業化されているため、各職人に加工依頼をし、仕上がった着物をお客様に納品します。
着物制作の最初から最後まで関わることから「プロデューサー」のような役目を担っていました。
現在では、加工作業そのものを行う職人を悉皆屋と表現することもあるようです。
街中に当たり前にあった悉皆屋ですが、日常で着物を着る方が減少し、着物離れが進んだことによって徐々に店を畳む職人が増えました。
現在、悉皆屋と調べてみると、呉服専門店、呉服問屋、着物工房、染物店、染み抜き専門店、着物クリーニング店などといった店名になっていることが多いです。
悉皆の主な内容
着物のお手入れにもさまざまな工程があります。一つずつ解説していきます。
丸洗い(クリーニング)
着物を解かず、専用のクリーニング機でドライクリーニングを行います。
丸洗いすることで着物の大敵であるカビやシミを綺麗にすることができます。
定期的な着物のメンテナンスをしたいときに有効です。
洗い張り
着物を解き、一枚の反物の状態に戻して水洗いするのが洗い張りです。
ブラシやハケを使い職人が手洗いで行います。
着物は主に絹で作られ(ポリエステルなど他の素材で作られている場合もあります)、絹は水に大変弱く、濡れると生地が縮む性質を持っています。
洗い張りをする職人には、相当なキャリアが求められ、生地や汚れの状態に合わせて、洗い加減を細かく調整します。
その後、のり付けを行い「湯のし」という工程で丁寧に反物を乾燥させ、縮んだ生地を元の幅に伸ばします。
水洗いすることで、汗染みやシミ落としだけではなく、生地を蘇らせることができます。
数十年タンスで寝ていた着物を蘇らせたいとき、サイズを仕立て直すときに最適な着物のリフォームだと言えるでしょう。
染み抜き
ファンデーションや口紅がついてしまったり、食べこぼし、泥ハネなどによってできてしまった汚れ、経年劣化による古い黄ばみなどの染みを、汚れに合わせた薬品を使用し、染み抜きを行います。
着物の染み抜きを行う染色補正業には、国家検定試験である「染色補正技能士」という資格があります。
高い技術を要する染み抜きを依頼する場合、染色補正技能士の有無を確認するとよいでしょう。
染め替え
染め替えは、洗い張り後、反物の地色を新しい色味に染め替えます。
着物の染みや汚れが目立ち、染み抜きではお直しできない箇所も、濃い色に染め替えることで着物を蘇らせることができます。
その他にも、ママ振袖の場合、お嬢様のお好みの色に染め替えることで、全く新しい振袖として着用して頂くこともできるでしょう。
若い頃に着用していた着物の色味が派手に感じるようになったときは、落ち着いた色に染め替えることもできます。
紋入れ・紋章加工
紋の入っていない着物より、紋が入っている方が着物の格が高くなります。
新たに家紋を入れる、黄ばんでしまった紋を綺麗にする、譲り受けた着物に異なる紋が入っている場合、紋替え・紋を消す加工を施します。
仕立て替え
体型の変化や、使用する用途に合わせて着物を着用する方のサイズに新しくお直しすることができます。
着物を譲り受けたとき、着る方の身長、手足の長さの違いから身丈や裄が足りないこともあるでしょう。
部分的に寸法を直すこともできれば、着物を一枚の反物にほどくことで、長さを伸ばすこともできます。
悉皆が必要な場面は?
悉皆屋は着物の困りごとを相談できる場ですが、身近な例としてどのようなときに悉皆が必要になるのでしょうか。
ママ振袖を着るとき
お母様から譲り受けた振袖を着る時、お嬢様の身長・体型に合わせ仕立て直す必要があります。
サイズを直すだけではなく、お嬢様のお好みの色に着物を染め替えることで、振袖全体のイメージを刷新することも可能です。
ゆくゆくは、振袖の長い袖を落として、振袖から訪問着に変えて長く愛用することもできます。
着物を譲り受けたとき
絹の寿命は約100年と言われ、丁寧に手入れを加えていけば祖母から孫へ、そしてその先の世代へ受け継ぐことができます。
もともと着物は、受け継がれることを前提に作られています。日本人の物を大切にする精神が伺えます。
近年、サステナブルの動きが定着化していますが、着物はまさにサステナブルな衣装だと言えます。
古い着物もほんの少し手入れを加えれば、蘇らせることができるのです。
悉皆を仕事とするには?
悉皆の仕事に就きたい場合、悉皆屋(呉服店、染み抜き店、染物店、着物の仕立て所、着物クリーニング店など)に就職し、技術力を高めていくことが一般的です。
一口に着物のお直しと言っても、着物の仕立て・仕立て直しは「和裁士」「仕立て職人」の手によって行われます。
染み抜きや染色補正は「染色補正技能士」「クリーニング師」などの専門知識を持つ職人が行います。
その他にも、着物に家紋や紋章を描く「紋章上繪師(もんしょううわえし)」という専門の職人もいます。
このように、さまざまな職人の技術により、一つの着物が出来上がります。
かつては悉皆屋が各専門職人に仕事を振り分け、分業で行われていましたが、現在では一つのお店で全て行う悉皆屋もあります。
まとめ
悉皆についてご理解いただけましたでしょうか。
着物を長く着用していくためには悉皆(メンテナンス)が必要不可欠です。
日本人の知恵と技術が詰まった悉皆を理解することで、着物を次の世代へ受け渡していくことができます。
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